[PR] ハローワーク バックドロップキックス 帝王の殻/神林長平
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2008.07.02
帝王の殻 (ハヤカワ文庫JA)帝王の殻 (ハヤカワ文庫JA)
(1995/09)
神林 長平

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神林長平作品を読んでいると、面白いだけでなく作中の細部まで完成していると思う。
人間の中の非人間。
機械の中の人間性。
言葉と世界。
自分の範囲。
それは例えばp118で「人間は言葉によって創られる」という台詞に見られ、先が気になりつつも、自分はこういった細部に気をとられ少なからず悔しい思いをしている。

それはさておき『帝王の殻』である。
これは神林長平の「火星三部作シリーズ」の二作目で、時系列からいってもちょうど真ん中に位置している。
もともとシリーズ三作目、時系列としては一番最初にあたる『膚の下』を読んでいたため、前作からの流れのまま読むことができた。
(とは言っても前作からだいぶ時間が経っているのだが)
アミシャダイや梶野少佐、間宮大尉など、懐かしい人物も多数出てきてくれた。嬉しい。

二作目の粗筋はこうだ。
>未来の火星一の都市、秋沙の市民たちは、『PAB』と呼ばれる「対話できるもう一人の自分の人工頭脳」を常に連れていた。開発した秋沙一族の三代目は、帝王と呼ばれ、それに相応しい実力と権力を持っていた。彼の死後、条件付で跡を継いだ恒久は、かつて抱いた父への反抗心と、妻子を守りたい思いの板ばさみに立つ。ある日、発達障害児と診断された彼の息子に変化が訪れる。

面白いと思ったのはやはりPABという装置。
作中では「副脳」と呼ばれ、言葉によって成長する人間の外部ユニットという扱いだ。
しかし小説の冒頭でこいつが「おれはおまえだ」と言う場面を見てからは、PABが本当は何か分からなくなってしまう。
言葉によって「わたし」を創るPABは、「わたし」の魂の模造品なのだろうか?
小説のクライマックスに近づくにつれ、PABは異常な行動を見せはじめる。
この現象に対して、この世界の人間は「異常なこと」と認識する。
と言うか、PABと自分が乖離していることが既にこの世界では異常なのだ。

こう書くとPABに違和感を持ってしまうが、しかし自分は私たちだってそう大差ないと感じた。
mixiやblog、ケータイやパソコン、ゲーム。
自分の外部ユニットという観点からだと、一見異常に思われた火星世界はこの時代と非常に似ているという事もできるだろう。

話は変わるが、『膚の下』と比べて緊迫感・スピード感ともに足りない感じがした。
それでも充分なのだが、『膚の下』があまりに完成されているせいか、この作品を弱いと受け取ってしまうそうになった。
また前作は主人公がアートルーパーという人造人間だったのに対し、今作は火星人で、自分の存在に対して悩むことをしない。
それはこの小説が、存在というよりは、自分の中の「わたし」を扱っているからだろう。
セックスへの言及もあったが、『膚の下』のように肉体を感じさせるまでは至っていない。
これもこの小説が「わたし」「魂」の問題を扱っているからだと思うが……。

以上、だらだらと作品の感想を書いてしまった。
が、しかしこの作品を語るのにこのような言葉は必要ではないだろう。
『帝王の殻』は何よりも先に優れたエンタメ・SF作品なのだ。
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